クロマグロやウナギなど、日本人が大好きな魚が最近軒並み「絶滅の危機」にさらされています。
クロマグロは2014年にIUCNのレッドリスト入りが提案され、ニホンウナギは2013年に環境庁のレッドリストにて絶滅危惧ⅠB類に、2014年にはIUCNレッドリストに掲載されました。
このような背景もあり、最近は「資源保護のための完全養殖」がとみにさけばれています。けれど、ちょっと待ってください。その知識、果たして本当に正しいのでしょうか。
養殖魚は資源保護になるのか
養殖は果たして完全な資源保護となりうるのか、という問題の答えはノーです。
養殖が資源保護に役立つとされる理由は、あくまで「育てる種類の稚魚を乱獲から守ることができる」からにほかなりません。
クロマグロを例にとると、「クロマグロの稚魚を捕らない」という点では確かに資源保護になるでしょう。
しかし、クロマグロはカキやノリと異なり、養殖する場合は「餌」を必要とします。この餌は何かといえば、イワシやアジ、サバなどの小魚、輸入物の白身魚です。生餌ではなく、ペレットのような配合飼料を与える場合でも、原料はこれらの魚です。
クロマグロに限らず、「1キログラムの餌を食べたから1キログラム体重が増えた」ということはあり得ません。
動物は食べた餌をエネルギーに変えて消費します。そのため、1キログラム体重を増やすには、1キログラムよりも多くの量の餌を食べる必要があります。
クロマグロのように高速遊泳によって大量のエネルギーを消費し、食物連鎖の頂点に君臨する生物は、この餌から肉への変換効率が悪いのが特徴です。
その値は、10キログラムの餌を食べて1キログラム体重が増える程度、とされています。つまり、マグロを1キロ太らせるにはアジやサバを10キロ与えなければならないのです。
そう考えると、クロマグロの資源保護には役立ちそうですが、アジやサバについては大量の浪費になると思いませんか。
人間が直接アジやサバを食べる場合を考えると、実に9キログラムの小魚を無駄に消費しているのです。このことから、養殖はしばしば「ほかの水産資源の浪費」とも言われます。
養殖はあくまで経済行為であり、「価格の高い人気の魚を安い魚を使ってつくる」という側面が強く、「資源保護」を全面的に押し出すのはお門違いであるといえます。
過密飼育による問題点
海洋という広い空間に生息している魚を、養殖施設へ閉じ込めることに疑問を呈する意見もあります。
アトランティックサーモンの一大生産地として知られるノルウェーの養殖は、日本よりも格段に機械化が進んだ近代的な施設です。
しかし、狭い生簀で密閉して飼育するため、ストレスにより魚同士のけんかが起こり傷ができ、そこから病原菌が侵入することがあります。また、過密飼育が常ですので、このような病気は生簀内に蔓延しやすくなっています。
この対策のため、抗生物質が投与されることもあります。
しかし、院内感染の例のように、病原菌が抗生物質に対してのちに耐性を獲得する危険があります。
これらの病原菌の中には人に感染するものや、近縁の種に感染するものがあります。それらが耐性菌となった場合、病気となった人間にも抗生物質がきかなくなってしまうのでは、と懸念されています。
餌の問題は
「養殖は小魚資源の浪費」という声を受け、一部の国では動物性たんぱく質の代わりに植物性たんぱく質、いわゆる大豆を使おう、という動きが出始めています。
まだまだ改良の余地がある分野とも言われていますが、問題となるのは栄養成分の違いです。
植物性たんぱく質をつかって、小魚と同等の成長速度がのぞめるのか、そもそも本来の食性に合わないものを与えて魚が健康に育つのかという疑問がしばしばあがります。
また、この大豆について不安視する声もあります。このような「動物性たんぱく質を植物性のたんぱく質で代用する」という運動は、世界的な穀物メジャーが中心として進めているプロジェクトです。
このような企業の大豆は大半が遺伝子組み換えのものであるため、「食の不安」をかきたてることになっています。
その養殖魚が何を食べて育ったのか、売り手側は表示する義務はなく、わたしたち消費者は知ることはほとんどできないのが現状です。
遺伝子組み換えは科学的にも感情的・感覚的にも賛否両論ありますが、わたしは否定的な考えを持っています。
「資源を守る養殖は夢のような産業」ではありませんし、「天然と同じ条件で育った魚」も「絶対に安心の食品」も存在しないのです。
情報化社会といわれる昨今で最も大事なのは、必要な情報を収集し、選別することです。「メディアのいう養殖」のようなことこそ、本当に正しいのかを問うよい例になるのではないでしょうか。
最後に
私は養殖の魚はほとんど食べません。その理由は、先に述べた抗生物質や遺伝子組み換え飼料、成長を促進し出荷を早めるホルモン剤などをエサに混ぜ与えられており、それを汚染と考えているからです。
これらは脂溶性のため体外に排出されにくく、エサを食べるたびに魚の体内に溜まっていきます。これを生態濃縮といい、最終的にその養殖魚を食べる人間が一番汚染されます。
で、結局最終的に比較論になってしまいますが、天然の魚の方が美味しく安全ならどちらを選ぶかは悩むことはありませんし、こどもに食べさせるならどっちを選ぶかと考えた時もまた悩むことはありません。
※味や安全性において、すべての養殖を否定している訳ではありませんので悪しからず。
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